――でも、その岡本さんの在り方って、僕はやはり原点に勝田)イズムを感じますね。

岡本 そうですね。なんだかんだ言っても勝田イズムは染みついていると思います。私は早生まれだったんで(誕生日が 2 月 3 日)、みんなが出来ることなのに、私だけできないってことを数多く経験してきました。だから私は、みんなのことを凄く尊敬できるんですよ。私が今やってる『VOICTION』でもそうだけど、年齢が上とか下とか、経験の長短は関係なく、私はぜんぜん、みんな同い歳ぐらいの感覚でいるんですよ、全員に対して。だから偉そうにする先輩とか、嫌いです(笑) いや礼儀はちゃんとしますけど心の中で「小っせぇな」と思うことはありますね。何が偉いんだろう?って。役者って結局、経験を活かせるわけじゃないですか。偉ぶらなくたって、それが表現されていい芝居だったら、お客様は「いい」って思う訳ですよ。もちろん同業者も。でも、好みがあるんで、別に万人に好かれようとは思わないですし、時代に選ばれることもあれば、選ばれないこともあって、だから今売れてない子が下だとは全く思わないし、凄く良い表現をするなと思う時には素直に尊敬します。私はよく生徒にいうんですけれども、お芝居を見ていて、その人が舞台に出てきた時に、「あ、好きだな」って思う役者っているでしょう?と。反対に、別に何も悪いことしてないのに、役の良い悪いじゃなくて「なんか好きじゃない」って役者さんもいるじゃないですか。みんなが良いと思ってる役者を、ちっともよくないと思うこともあるわけです。つまり、演じ手がどうしようが、どうしようもないんですよ(笑) 見てくださる人が(自分を)好きか嫌いかという。だから、自分が自分らしくあれば、あまりそこを演出してもしようがない、共演者や仲間たちと一緒に、この作品をどう作り合えばいいのかっていうところに向かい合う以外考えることは無いですね。私自身、役者としては楽しんで、いっとき夢を、嘘を嘘じゃなく思えてくれればいいかなと思います。凄い事でしょ? その楽しい作業の中で、観てくださった誰かの人生に影響を与えたり、幸せにしたり出来るなんて!。

――そうですね。自分も作家として、そうありたいと思っています。

岡本 そうでしょ? 文章もそうだし映画もそうだし、アニメもそうだし。だから私ね、今の方が「私、声優です」って言えるんです。当時はまだ、なにものでもない表現者・岡本麻弥としての限界を試されて、評価をされたい、認められたいと思っていたわけです。でも今は、振り返ってみれば、声優の一つ一つの仕事、スタッフの方もそうだし、応援してくださった方もそうだし、本当になんて幸せな人生だろうって思うんですよね。今の方がむしろ「アニメの声優」って呼ばれ方に抵抗なく向き合えるんです。当時は声優っていう色をつけられるのが、すごく嫌だったのに、面白いですよね。

――その思いが変わられた転機は、なんだったんでしょうか。

岡本 うーん。変な話なんですけど、私近所の子どもからも「おばちゃん」って呼ばれなかったんですよ。「お姉ちゃん」ってずっと呼ばれてて「よかった、すっぴんでもお姉ちゃんって言ってもらえて」って思ってたんです。それで「いつ『おばちゃん』って言われるようになるんだろう」って考えてて、嫌だな、受け入れられるかなって思ってたんですけど、全然今、抵抗がなくて(笑) おばちゃんって言われるよりは、おじちゃんって言われる方が現実味がないので気が楽ですけど(笑) それと同じようなもので、あまり考えていなくて。転機というよりは、その時その時を頑張って過ごして、何も考えずにあるがままの自分を受け入れていたら、それが「アニメの声優」でも嫌ではなくなっていたという流れだと思います。

岡本麻弥さんが模索した「自分の魂を伝える手段」そこへの鍵は、ひょっとしたら海の向こう側で彼女をまっていたのかもしれない。

次回、「岡本麻弥アクトレスインタビュー・5『岡本麻弥とアメリカ修行と「品がある演技とは」と』」

君は、刻の涙を見る……。

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