大賀 そうです。次のヒット作の『おぼっちゃまくん』も、ある意味資本主義批判が根底にありました。でも、『ゴーマニズム宣言』はいきなり転向してしまった。極右の老害・西部邁とかと仲良くし始めちゃって、小林は今でこそ現代のネトウヨを嫌ってますけど、そのネトウヨを大量に生み出したのは、最初に鳥羽口を開いたのは、他ならぬ小林よしのり本人だったわけです。
三留 うんうん。
大賀 その転向の原因は、当時も今も公式では「オウム真理教に命を狙われたことがきっかけである」とされていますが、僕は違うと思っています。小林は左派のころの気分の悪ノリで、注目を集めつつあった『ゴーマニズム宣言』の連載の中で、よりによって皇太子徳仁親王成婚をネタにしてしまった(タイトル『カバ焼きの日』)。保守右派にとって神に等しい皇室を、ブラックパロディギャグにしてしまい、当時の扶桑社の『SPA!』はその掲載を見送ったんです。そして編集部と揉めて、休載期間を終えて再開された連載は、突然右派論客の道を突き進む内容に、変質してしまっていた。
三留 うん。
大賀 「ものすごく反社会的な、アヴァンギャルドな作風で世に颯爽と名を知らしめた反体制的表現者」が、ある日突然、消えてしまい、その後まるでロボトミー手術を受けたか、変な注射でも打たれたかのように、ウヨク化してしまうという前例って、事欠かないんですよね。
三留 うん、そうだよ、そうだよね。なんでこんな(保守思想的な)こと、描いちゃってるのかなっていう。(社会が)見えなくなっちゃったのかな。周りが支持者、取り巻きばかりだとね。誰かが叱ってくれないとねぇ。