大賀 でもね。すごいなぁと思ったのは。今のネトウヨって、皇室も尊ばないのね。確かに僕らより前の時代から「大和朝廷騎馬民族説」とかあって(日本SF作家クラブ「『折口裕一郎教授の怪異譚 葛城山 紀伊』外伝『市川大賀interviewed ・1』」市川大賀 参照)、「天皇の系譜って、そもそも朝鮮半島にルーツがあるんじゃないか」ってことは薄々みんな気が付いていたんだけれども。さっきも言ったけど、ネトウヨの皆さんって「日本が偉い」の結論ありきじゃない? そこで異様なまでに、韓国や朝鮮を差別して蔑視するじゃない? そうなると、その朝鮮をルーツにもつ皇室も、もはや「見下すべき代物」としてるウヨク脳まで出てきてる始末で。「天皇なんて朝鮮人の末裔じゃないか」とかを、自称愛国者が平気で言ったりするの。僕は確かに左派だけど、確かに天皇制反対だけど、それは制度概念としての天皇制に反対なのであって、実在する天皇陛下や皇室には、最大限敬意を払いたいし、実際、昭和天皇や平成天皇は、この国のために身を削ってやってきてくれたと思う時、感謝こそすれ、侮蔑なんてとてもじゃないけどできないんだよね。

三留 彼ら(ネトウヨ)はいつも「在日だから」とか「朝鮮人だから」で完結させちゃうけど、そんな馬鹿な話ないよね。思考がそこで止まっちゃってるのが、ものすごく気の毒だよね。

大賀 だって、そもそも日本人って言われてる人ってほぼ全員……。

三留 そう! 日本人のルーツは、みんな大陸から来ているんだよ! (ネトウヨは)自分たち自身を汚している事実に、気が付いていないの。やれ在日だ、朝鮮人の末裔だって差別するくせに、自分たちは違うって思ってるのね。

――理解できない思考回路ですね。

三留 だから「日本すごい」って結論に、逃げるしかないんだよね。

大賀 そういう意味で、日本はまだまだ戦後であり、戦前であるという自覚を前提にして思うのは。映画で『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年 監督: 山崎貴)が大ヒットしたじゃないですか。あれでヤバイなぁと思ったのは。いわゆる高度経済成長期の日本を支えてたプライドみたいなところに、「戦争が終わって、東京は焼け野原だった。何もない瓦礫の山から、日本のお父さんたちは必死にがんばって働いて、たった四半世紀で、ビルが立ち並ぶ、世界有数の近代都市に成長させたんだぞ」っていう、美談めいたものがあるじゃないですか。あの映画はそういう美談を全肯定しているところで作られている。

ALWAYS 三丁目の夕日

三留 うんうん。

大賀 だけど、本当のことを言ってしまえば、どんなに日本のお父さんががんばったか知らない。いや、確かにがんばったのではあろうけれども、そこで国家が潤う前提の、外貨獲得としての、1950年からの朝鮮戦争と、1955年からのベトナム戦争、この二つの戦争による、アメリカからの軍事特需景気。さらに遡るのであれば、それらの戦争を起こす前提としてのアメリカGHQによる日本占領。そういった条件が揃っていたから、日本はあれだけ悪辣な戦争の引き金を引いておきながら、敗戦してなお、ドイツやベトナムのように国土が分断されることもなく、ぬくぬくと経済成長を遂げられたんだという「真実」の部分が、三丁目の夕日ブームからは欠落していたことが、すごくやばいことなんだと感じましたね。

次回「三留まゆみ×市川大賀 第十五夜「三留まゆみとこれからの映画と」」

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