本話は満田かずほ監督の『ウルトラセブン』(1967年)監督第1作目。

そもそも『ウルトラセブン』は、最終的に放映された完成作の設定・方向性になるまでに、様々な企画段階での試行錯誤があったことは、セブン第一回の『姿なき挑戦者』の解説でも述べたとおりであるが、その、消えていった企画の中の一つに、「海洋物」という方向性が存在していた。

具体的な資料は残っていないが、おそらく『サンダーバード』(制作1965年・日本放映1966年)を初めとする、アンダーソン作品の影響を受けてのことだと思われ、実際、セブン制作前の円谷プロでは、セットプールを使い、大量の水を使用しての、様々な特撮の研究やキャメラテストが行われていたと言われている。

例えば、セブン終了後数年経ってから製作された、『帰ってきたウルトラマン』(1971年)で描写された、防衛チームMATの「海中基地」という発想は、実はセブンでプランニングされていたものであるが、セブン当時はまだモニター600キャメラが導入されていなかった為、水の動きやうねりにスケール感を与えることが出来ず、断念されたものと思われる。

(余談ではあるが、この時制作されたウルトラ警備隊海中基地のミニチュアは、後に『戦え!マイティジャック』(1968年)において、敵組織・Qの秘密基地として、最終回に登場している)

モニター600とは、当時の最新鋭のキャメラであり、通常の16mmフィルムキャメラでは20倍速が限度だった時代に、モニター600は30倍速の高速度撮影が可能だったという。

この最新鋭キャメラは後に『マイティジャック』(1968年)で導入され、水特撮の表現に広がりを持たせたが、セブン当時は既存のキャメラで撮影するしかなく、スタッフも試行錯誤を繰り返したが、予算を食いつぶすばかりで、納得のいく成果は得られなかったと言われている。

結果的にテレビベースの海洋特撮は、この時点ではコスト的に採算が合わないと判断されて、出来上がった実際のセブンでは絵面的には前作『ウルトラマン』(1966年)の方向性を堅実に踏襲した形に落ち着いたが、そこでの試行錯誤は、様々な形で痕跡を残している。

例えば先述したように、そこで養われた水特撮技術は、セブン後半と同時期に放映されていた、円谷プロが放った、日本テレビ界初の1千万円ドラマ『マイティジャック』で、如何なく発揮されることになる。

また、セブン開始前のキャメラテストで、撮影された水特撮のフィルムは、ソラリゼーション処理を施されて、印象的なオープニングのタイトルのバックを飾ることで、キャメラテストでかかった膨大な経費を、少しは取り戻せたようである。

今回解説をするこの『マックス号応答せよ』は、物語の推移の中で舞台が、そのまま「水物」から「宇宙物」へと移行していくという、セブンの企画推移を、そのまま具現化したような構成になっているのである。

また、セブンでは前作『ウルトラマン』の反省から踏まえた試みも、当初は考えられていた。

例えばウルトラマンの弱点として誰もが知っている「制限時間3分(厳密には制作当時は3分という具体的な数字は、撮影サイドは決めていなかったが)と、それを報せるカラータイマー」という設定が、そもそもウルトラマンを無制限に活躍させられるだけの、予算とスケジュールが取れないという、制作サイドの制約から出てきた設定であることは、ウルトラファンなら誰もが知っている常識である。

ウルトラマンは巨大なヒーローだから、登場するシーンは必ずそれは特撮パートである。

だからどうしても、ウルトラマンはクライマックスにしか、それも短時間しか登場させられない。

しかし、それではどうしてもワンパターンになってしまう。

そこでセブンをマンと差別化するために、『ウルトラセブン』では当初「まずは変身してからしばらくは、等身大の大きさで活躍して、最終的なクライマックスでのみ巨大化する」という設定が考えられていた。

放映第1話『姿なき挑戦者』で、巨大化シーンがほとんどなく、その後も『ダーク・ゾーン』『宇宙囚人303』『アンドロイド0指令』などの(予算やスケジュールがまだ潤沢であるはずの)初期話で、セブンがその活躍のほとんどを、等身大ですませてしまう話が目立って多いのも、あえてそうすることで、ウルトラマンとの違いを明確にしようという、制作サイドの意図があったからである。

しかし、実際に制作に入ってみると、本編と特撮の両方で、一つの着ぐるみのセブンを併用することの方が、却ってスケジュールを圧迫することが判り、結局はその「物語中盤からは変身した等身大のセブンが活躍し、クライマックスになってからは巨大化して戦うする」というコンセプトは、本話の他はほとんど有効活用されることもなく解消されていくことになる。

企画段階で消えた設定でいえば、当初、「モロボシ・ダンという主人公が少年」という初期設定が、『ウルトラマンジュニア』という企画で明記されていたという話は以前述べたが、例えば満田かずほ監督はこの話での「かっこいいなあぁ。僕も一度は乗ってみたかったんですよ!」という台詞や、本話と同時に満田組がクランクインした『ダーク・ゾーン』においての「うわーい!」という喜び方や、「弱虫さん!」という演出や、『700キロを突っ走れ!』の冒頭で、ダンが映画館で椅子にかじりつきながら巨大な煎餅をかじる描写など、満田監督の特色として、ことさら主人公のダンを子どもっぽく描写する方向性が見て取れる。

それは、今から思えば「少年主人公」という消えた企画の設定が、垣間見えるようにも受け取れるのである。

そしてまた、本話クライマックスの、ゴドラ星人とセブンの戦いにおいて、バックで鳴り響く勇壮なBGMは、実は本作品の主題歌として作られた楽曲であり、この曲は結局没になってしまったが、本採用された主題歌と酷似した歌詞で歌われている、当時のマスターテープは今でもちゃんと現存しており、現在では「ウルトラセブンの歌パート2」というタイトルで、セブン関係のCDには必ず収録されている。

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