その上で、この謎を解き明かすために重要な、裁判記録の事実関係がある。
その件に触れたのは、『ウルトラセブン』の、玩具やグッズに特化した老舗サイト「ウルトラセブン Vintage」サイト主による、この記述である。

450円(大)セブンの金型改修は、かなり遅れて行われ、ブルマァク期にはいっても、長い間マルザン版のまま、ブルマァクの袋に入れて販売されたようです。そのため、「希少性」においては、むしろブルマァク版の方が高いかもしれません。カタログでも、ブルマァク最終期でもマルザン人形が掲載されていました。或いはマルザンよりもブルマァク版の方が数がすくないのではないか?という考察のひとつの証拠として、いわゆるニセモノ事件の際に執行された仮処分申請書の文面が参考になりますので、以下に引用します。(抜粋)『またウルトラマン人形の足裏には「BULLMARK」「(C)円谷プロ」の商標及び標章がウルトラセブン人形の足裏には「(C)円谷プロ」の標章が刻印されており…』 これは1972年の申請書であり、文面からわかるように、この時点でなお、証拠品としてブルマァクが提出したウルトラセブンにはブルマァクの刻印がなかったことをあらわしていると言ってよいでしょう。商標について争っている事件の申し立てに対し、あえて古い人形を提出するのはおかしいですし、場合によっては、この事件があったために、あらためて刻印の改修忘れに気づいて金型を修正するとともに、ニセモノとの差をわかり易くするために、刻印の打ち直しだけでなく、胴体や脚などの大掛かりな改修に踏み切ったのではないでしょうか? 

ウルトラセブン Vintage

筆者は、その当時の裁判の詳細を知らないが、このサイト主氏の記述と仮説を基にするのであれば、ブルマァクは、この裁判が起きるまでは、自社のウルトラセブンソフビには、自社の刻印をせずに(刻印がマルサン時代のもののまま)販売を続けていて、このニセモノ事件の仮処分申請をきっかけに、改めてブルマァク刻印を施したウルトラセブンソフビを、販売するに至ったという解釈が成り立つのではあって、そのロジックは道理にかなっている。
 しかし、もう少しその「ニセモノ事件」を調べていった先で、新たな疑問が湧いてきた。
 ウルトラ関係で、史実やブロップの考証や、ロケ地探訪などに造詣が深い、こちらも老舗のサイト「光跡」に設置された、ウルトラ関係の玩具を扱ったページ「玩具の光跡」には、以下のような記述がある。

1972年 ニセモノ、マン・セブン・ミラーマンなど発覚、新聞記事、裁判へ
1973年 ニセモノ事件裁判勝訴!1月25日

「光跡」

 基本的に、ここでの事実明記は、「ウルトラセブン Vintage」サイト主の記述と何も矛盾はない。しかし、ここから類推される「ブルマァク刻印が施された、ウルトラセブン450の発売期間」が、かなり限定されてくるのである。
 なぜなら、ニセモノ事件裁判で、勝訴が確定されたとされる1973年からは、春からスタートした『ウルトラマンタロウ』の展開に合わせ、ブルマァクは怪獣ソフビの展開をやめ(『ウルトラマンタロウ』初期の怪獣の、スタンダードソフビの原型は、先駆けて作られてはいた。それは前年の『ウルトラマンA』(1972年)ホタルンガのソフビ辺りから始まった、金型までは作られて、商品は発売されなかった『幻11体』と呼ばれる伝説に繋がる)ウルトラファミリーだけのソフビ商品化に的を絞ったのだが、そこでウルトラマンタロウの兄達に当たる、ウルトラ兄弟のウルトラマンやウルトラセブン達は、新規格商品の、新スタンダードサイズの商品が、改めて造形され、発売展開されたのだが、それは今回紹介した、旧マルサンの金型のソフビとは、全く異なった造形の商品であった。



代替テキスト

 このセブンが、他のウルトラ兄弟と同じく、1973年に発売開始されたのだという事実を前提にすると、マルサン原型のセブンの生産と販売は、入れ違いだったとしても、1973年には終了しているということになる。問題は「ブルマァク刻印が入れられ始めた時期」の認定だが。「ウルトラセブン Vintage」サイト主氏の分析に沿えば、ブルマァクはニセモノ事件が表層化した時点で、慌ててマルサン刻印のセブンソフビに、改めてブルマァク刻印を入れ直したという流れになるが、1972年の仮処分申請の時点では、まだセブン450ソフビには、ブルマァク刻印はされていなかったのではないかという仮説は、司法記録に残されている文書の内容からも真実性は高い。
 そうなると「マルサン原型」でかつ「ブルマァク刻印が入った」セブン450ソフビは、1972年のニセモノ事件仮処分申請後から、1973年新規造形セブン販売開始までの、1年弱の間にしか存在しなかったという前提が成り立つ。「ウルトラセブン Vintage」サイト主氏が「マルザンよりもブルマァク版の方が数がすくないのではないか?」と記述した点からも、この「ブルマァク刻印 マルサン原型 ウルトラセブン450」は、ヴィンテージのセブンソフビの中でも、1、2を争う希少な存在なのかもしれない。
資料性はともかく、筆者個人の記憶はどうあがいてもよみがえらせる事はできないので、いろいろ心残りである。

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