本話は『ウルトラマン』(1966年)においての、佐々木守・実相寺昭雄コンビの第一作であり、その佐々木・実相寺イズムが片鱗を見せた最初の作品である。

佐々木守氏が70年代のテレビ界に残した不滅の功績や、実相寺監督が映画界で残した足跡に関しては、この『光の国から愛をこめて』でも、追々解説を加えていくことになるが、本話においてはその独自性はまだまだ、様子伺いの段階でもあり、しかしそこには、既にはっきりと、このコンビの視点や独自の路線が垣間見えるのである。

最初に気づかされるのは、この作品における特撮パートが、かなりの比重を占めるのにも拘わらず、ウルトラマンの登場シーンが、当時としては考えられないほどに少なく、また、その活躍も淡白であるということ。

ここには、実相寺監督が後に述べたような「ウルトラマンという存在には、なんのシンパシーも感じられなかった」という価値観が覗けるのではあるが、それ以上に、この話においてのウルトラマンという存在の活躍には、放映作品では、最終的に描かれなかった逸話があるからでもあるのだ。

本話では、ウルトラマンとガマクジラとの格闘場面がもっと撮影されていたが、結果的には殆どがカットされたという。

その内容は、ガマクジラにウルトラマンが腕を咬まれて流血、一時敗れるものだった。

この伏線で、ムラマツ隊長が、腕の傷ついたハヤタ隊員と、ウルトラマンの怪我の一致を不審がるシークエンスがあったが、TV局の方針で削除されたという経過があったらしい。

おそらくこのシークエンスは、ハヤタのビートルがガマクジラの攻撃で墜落し、その後にフジ隊員によってハヤタが救出されるまでの間で設定されていた、ウルトラマン活躍シーンではなかろうか?

「怪獣に対してウルトラマンが立ち向かう。しかし、その怪獣の驚異的な力の前にウルトラマンは手も足も出ず、ウルトラマンは一敗地にまみれるが、科特隊の独自的な作戦で追い込まれた怪獣に、とどめを刺すために再びウルトラマンが登場して怪獣を葬り去る」という、本話で佐々木・実相寺コンビが発想した構造図式は、やがて同じウルトラマンの『空の贈り物』で再び描かれることになる。

また、電磁網作戦や真珠爆弾、ミサイル作戦等々、後のスカイドン戦ではメインコンテンツとなる「科特隊と怪獣との、作戦によるコミュニケーション」が緻密に描かれる。

ここにはおそらく、佐々木守氏による「怪獣と人類社会を、断絶させないコミュニケーション」の、役割としての科学特捜隊が描かれていて、それは70年代には田口成光氏によって『ウルトラマンタロウ』(1973年)のZATが繰り広げる数々の作戦で、より滑稽に描かれるようになるのではあるが、、の、遊戯的にも見える牧歌的な作戦の数々は、巨大で威圧的な怪獣と、矮小で非力な人間とのやり取りの中でこそ、深遠な意味性が(裏側に、奥深い恐怖と闇を伴って)伝わるのであり、タロウのそれは、残念ながら(醜く安っぽい怪獣の造形も手伝って)コント的な肩透かしとしてしか、機能していなかった部分も大きい。

佐々木・実相寺コンビに話を戻すのであれば、ウルトラマンの扱いや、削除された正体バレエピソードや、科特隊の牧歌的作戦なども含めて見ていくと、そこには、底意地の悪さのようなモチベーションに基づいた「ウルトラマン世界のちゃぶ台返し」的なコンセプトがあったことに、いまさらながら気づかされる。

『ウルトラマン』が『ウルトラマン』的でたりえる必須条件としての、お約束の数々を、佐々木・実相寺コンビは意図的にひっくり返すことで、自分らの存在証明を、作品内で刻み込んでいた節が伺えるのである。

それは(佐々木作品ではないが)、やがて実相寺監督のウルトラシリーズ代表作となる『ウルトラセブン』(1967年)『狙われた街』での「主人公・ダンとメトロン星人が、ちゃぶ台を挟んで座って会話をする」というシーンに繋がるわけであり、ここでも実相寺監督は、セブン制作時の約束事項である「輸出を考えて、日本的な情景シーンは出さないように」というルールを、あえて破ることが目的であるかのような、目的と手段を意図的に入れ替えた演出を、そこに見て取ることが可能なのだ。

佐々木氏に関しても(これまた実相寺監督作品ではないが)、同じ『ウルトラセブン』の『勇気ある戦い』飯島敏宏監督作品)などで、痛烈な「セブン世界批判」を行っており、このコンビは、互いが離れた形で作品に関わっても、常に、参加している作品世界観や価値観を揺さぶり続けることに、独自の存在証明を賭けている節が、常に見て取れるのである。

筆者は、だからといって佐々木・実相寺コンビを揶揄することを目的として、今の文章を展開しているのではない。

青年時代からの、筆者の旧友等であれば、筆者がいかにこのコンビのファンであり、ある種の崇拝者であるかは、言わずともご存知であろうと思う。

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