ジェットビートル(ハイドロジェネレードロケットエンジンVer)
本話から登場した、科特隊の主力戦闘機・ジェットビートルの、宇宙空間飛行用ハイドロジェネレードロケットエンジンを積んだVerは、バンダイが2001年に商品展開していた、HGシリーズメタルメカコレクション05のビートルを撮影に使用した。
このアイテムが発売された2001年は、キャラクター玩具界は、ある意味で移行期の真っ只中であった。
玩具には昔から当然のように、高価格帯の商品と廉価版の商品とがあった。
もちろん高価格帯商品は、素材も豪華な物を使い、作りこみや塗装も行き届き、ギミックも満載という仕様で発売され、一方廉価版商品は、コストの安い素材を使った商品であり、塗装もディティールも細部は省略され、ギミックも簡素という仕様で、その二種は様々な段階分けをされながらも、共存し市場を形成していた。
その流れの中で、海洋堂が90年代後半に、フルタ製菓の商品として開発したチョコエッグのオマケフィギュアから端を発したフィギュアブームは、今書いた玩具界の常識を、根底から覆す勢いで、チープトイ、廉価版玩具の品質的底上げを加速させた。
そこで一気にバブル的スパイラルに突入した、多くの食玩・ガシャポンフィギュアは、材質こそ軟質ソフビやPVC、ABS樹脂といった低価格素材のままが多かったが(そういった材質のコスト安も、その後近年に到る原油価格高騰で、決して安価な素材とは呼べなくなってきており、結果商品価格が上がりつつある)、それ以外の、ディティール、再現性、塗装工程などは、矢のような速さでそのクオリティを上げ続けて、2000年代初頭には、既にピークに達しつつあった。
その結果、玩具メーカーが高価格帯商品として、ハイエンドユーザーをターゲットに開発して展開した商品と、チープトイとして開発展開しているはずの商品が、素材が持つ高級感や、付加価値的ギミック以外では差別化されなくなってきたという現象を、副次的に生み出す事態となった。
今回紹介する、HGシリーズメタルメカコレクションは、今述べたケースにおける、高級商品にあたるカテゴリ商品である。
そもそもバンダイは(もはや形骸化しつつあるが)自社製品の中でも、特に素材やギミック、再現性などに力を入れた商品に対して、「HG」という冠を被せることで他の製品と差別化し、購入した消費者に、1ランク上の高級感を伴った満足感を与えようという構図を90年代以降に構築して、そのHGブランドイメージを上手く使ってきた。
このHGメタルメカコレクションは、上記したチョコエッグブームの中、自社でも軌道に乗りつつあった、ウルトラマンや仮面ライダーのHGガシャポンと連動する形で展開された、合金使用玩具のシリーズである。
(例えば同ラインナップのサイクロンやハリケーンといった仮面ライダーのバイクは、HGガシャポンのライダーフィギュアと、同じスケールで立体化されていたりする連動性をみせていた)
コインを入れて、ランダムに与えられるアイテムを集める「駄菓子屋の店先の駄玩具」だったタイプのガシャポン玩具が、この時期クオリティを急騰させた流れを受ける形で、そのプレイバリューを広げる意味と、カテゴリ全体の高級感を上げる意味で、様々な形で「HGガシャポンをサポート」する位置づけで開発された。
シリーズは基本的に、HGガシャポンで展開されていたウルトラとライダーの、劇中に登場するサポートメカニックを、ABSや金属素材などで再現した商品であり、高級感溢れる手触りや、細かいパーツ、塗装部分などの再現性、あくまで放映作品にのっとった各種ギミックの再現などを盛り込んだ、半完成品状態仕様のアイテムとして、当時は鳴り物入りで発売された。
しかし、そのシリーズは当初の目論見ほどにはヒットを飛ばすことは出来ず、バンダイのいつものパターンだが、このシリーズはビートルやサイクロン、ハリケーンやホーク1号、マグマライザーやポインターなど、代表的なメジャーメカを数点発売しただけで、立ち消えてしまった。
なぜだろうか? その答えは簡単だった。
バンダイが、このシリーズに持ち込んだ様々な要素の中で「素材がもつ、価格に見合う高級感」以外のほとんどの要素は、この時期吹き荒れていた、廉価版玩具の技術バブルの嵐によって、たった数百円の食玩でも、簡単に再現できるレベルに到達していたからであった。
そしてその、高騰したチープトイのクオリティレベルは、このシリーズの数年後には、もはや下げることの出来ないほどに、チープトイクオリティの、最低限度ハードルとして機能することになる。
事実、この数年後に同じバンダイから発売展開された、ハイパーディティールメカという食玩シリーズの、ビートルやホーク1号、ポインターといった廉価版駄玩具は、HGメタルメカコレクションの、半分以下の価格でしかないにもかかわらず、そこで使用されている素材と、その質感がもたらす高級感以外は、HGシリーズに一歩も引けをとる出来ではなく、むしろ、細部のディティールや解釈、再現性に到っては、HGシリーズを超えるレベルの商品であったりもしたのである。
さらにその、ハイパーディティールメカシリーズは、2007年になってから「HDM ウルトラ超兵器」シリーズへと進化し、さらにギミックやディティールのクオリティを上げた結果、HDMシリーズの商品は、かつてのHGシリーズの商品と比較したとき、高級感を与えるその素材の質感以外、全てにおいて勝っているという、最終的な結果を勝ち取ってしまったのである。
筆者は、『光の国から愛をこめて』で再現特撮を行うとき、一つのメカに対して、どのアイテムを選択して小道具として使用するかを、様々な要因で決めているのが現状なのだけれども、例えばビートルにしてもホーク一号にしても、基本はハイパーディティールメカを使用しており、HGシリーズはあまり使用していない。
理由は簡単で、軽い素材で作られたハイパーディティールメカは操演がしやすく、堅く、重たい素材で作られたHGシリーズは操演がし難いからである。
その上で、ディティールなどの再現性がほぼ同じとなれば、わざわざ操演がし難いHGシリーズを選ぶ理由もなく、今までは当然のように、ハイパーディティールメカを使用してきた。
ただ、ギミック面においては、さすがにHGシリーズの方が勝ってる面もあり、それは例えばホーク1号では3機分離合体機構であったり、このビートルではハイドロジェネレードロケットエンジンの合体であったり、そういう付加価値的ギミックはハイパーディティールメカにはないため、そういった描写が必要になるときは、HGシリーズを使用してきた。
(例『ウルトラセブン』『宇宙囚人303』のホーク1号分離・合体シーン)
それでも「HDM ウルトラ超兵器」シリーズが、軽さと再現性とギミックを、全て網羅して展開してきた時期からは、例えばホーク1号の分離シーンでも、今後はそちらを使っていくことになるが、このサイズで、ハイドロジェネレードロケットエンジンを、合体させられるビートルが、HDMでは発売されなかったため、今回はHGシリーズのビートルを撮影に使用したのである。
確かにその後のチープトイバブルを考慮に入れなければ、このHGシリーズのビートルも、文句を付けようのない出来である。
シルエットの解釈も問題はなく、細かいパーツやディティールもシャープ。
塗装も既に細部まで施されており、キャノピーもクリアパーツ。
ハセガワやタスクフォースのプラモデルがなければ、立体解釈のビートルとしては、ギミックもあわせて満点に近かったろう。
ハイドロジェネレードロケットエンジンも、オマケレベルに留まらず、パーツ分割や細部ディティールなどが上手く考えられて作りこまれている。
この時代のあだ花としても、フィギュアバブルを象徴する商品シリーズであるだろう。