商品の未組み立て状態のSAHウルトラセブン

さて、そんなSAHシリーズの筆頭を飾ったウルトラセブンであるが、先行するメディコムのRAHシリーズが「あえて手を出さない」ウェットスーツ型の巨大ヒーローに挑むにあたって、マーミットは必殺技のような「奥の手」を持ち込んだのである。
時代は過去から未来に流れるもので、どんな達人も未来は予測できない。
ウルトラマンやウルトラセブンを作ったスタッフや、造形やデザインのお歴々だって、60年代から「そのままアクションフィギュア化することが極めて難しい素材とスケール感で出来ている」等といった問題点にはまったく関心がなかっただろう。
そう、円谷プロのスタッフや、成田亨氏や高山良策氏は、ウルトラマンやウルトラセブンを、ウェットスーツでボディを作ることで、宇宙人の皮膚らしさを演出したのだが、今度はそれを、手にして遊べる玩具で再現しようと思うと、変身サイボーグ1号のような「素体にスーツとマスクを装着するフィギュア」だと、スーツの生地の薄さからくる皺がリアルさを失くさせ、超合金ウルトラセブンのような「ディテール関節型」だと、今度は関節や分割ラインが目立ちすぎてしまって、これもリアルさを失くさせるというダブルバインド。
だからこそ、元々のスーツが合皮やジャージ等の東映ヒーローを1/6で展開していたメディコムは、あえてウルトラには(この時点では)手を出さなかったのだが、そこへ後攻となるマーミットは、なんと「素体に着せるスーツを、軟質ソフビで1パーツで用意するキット状態」で勝負に出たのだ!

組み立て途中のSAHウルトラセブン

この商品は、初期のガレージキットレベルで、構造は簡単なのだが、組み立て難易度は高かった。
可動素体は同時期のメディコムのGIジョー流用よりは、練り込まれて新機軸の構造だったが、「ソレ」に軟質ソフビのスーツを着せるのに、まずあり得ないぐらいの苦労をする。この段階で、組み立てを諦めてしまったり、素体に無理な負荷をかけて壊してしまったユーザーも少なくないと聞く。パーツ数は少ないものの、ちょっとした永野護メカの1/100レジンキットか、ゼネプロのペーパークラフトのメーサー殺獣車並みの難易度を誇っていた。

だからだろうか。筆者はベビーパウダーまみれになって(説明書に、上手くスーツを着せるにはベビーパウダーを使えと書いてあったから)軟質ソフビのスーツを着せたが、商品は、まずは1997年1月開催のガレージキットイベント「ワンダーフェスティバル」(無地の段ボール入り)で試験販売された後、1997年11月頃に一般発売(頭部とスーツを直しあり)。この辺りの順序の踏み方が、超合金ウルトラセブンの二段階販売を思い出させる。

しかし、質感を重視して軟質ソフビでスーツを作った「変身サイボーグ1号以来の1/6「素体にスーツとマスクを装着するフィギュア」のウルトラセブン」」のパイオニアになったマーミットSAH版だが、そうそう上手くはいかないもの。
このSAH初期版。計算通りスーツのフィット感は素晴らしく、苦労して出来上がった完成版を、手に取り、見つめ、ポーズをとらせて遊ばせてる分には最高峰なアイテムなのだが、なんとこれが「ポーズを付けて飾れない」のだ。軟質ソフビのスーツの弾力に、素体の関節の保持力が負けてしまい、ポーズを付けて飾っても、すぐさまスーツの剛性で素立ち状態に、自然に戻ってしまうのだ。

90年代商品にして、完璧なマスク造形

なので、パイオニアにして、素材として決定打を出したSAH版だが、可動が死ぬのであればメーカーとしてもリトライをせざるを得ず、1998年秋頃、スーツをビニールに変え、塗装済キットとして再発売されることになった(胴体のラインは白と銀の二種類あり)。型番のSH-017はおそらくこの最終版を指すと思われる。

その結果、「ある程度の可動とポーズの固定」は得ることが出来たが、スーツの素材の質感と、皺などがもたらす「スケール感欠落」は、「素体にスーツとマスクを装着するフィギュア」における、ウェットスーツの特撮巨大ヒーローの商品化に、大きな壁となって未来永劫立ち塞がる命題となったのである。

そして約10年後、今度は「素体にスーツとマスクを装着するフィギュア」を1/10スケールフィギュアで展開していたオオツカ企画が、ドカンといきなり、巨大ヒーロー第一弾で、まずは映画『ULTRAMAN』(2004年)主役の、ウルトラマンザ・ネクスト アンファンスという商品を出した。このウルトラマンザ・ネクスト アンファンスは甲冑アーマータイプなので、ソフビパーツで外装を作る手法で再現しやすかったからだと思われる。

ハイパーヒーロー ウルトラマン ザ・ネクスト アンファンス

その商品で、円谷プロと縁が出来たオオツカ企画は、このサイズと再現しえる選択の生地で、ウルトラマンとウルトラセブンの商品化に着手した。しかも、ヒーロー単独ではなく、ウルトラマンはゼットンと、ウルトラセブンはキングジョーと、それぞれ組み合わせたセットで販売されたのである。

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