岡本 まぁ実際には殆ど全ての庶民に関係してくるんですけど。声優の世界はギャラが低いのが昔から問題で、今 VOICTION で取ったアンケートでも、実に声優の 77%が、年収 300 万円以下の枠の中にいます。インボイスではそもそも、あくまでも表向きは、個人事業主が個々に税務署で(インボイスを発行できる)適格請求書発行事業者の登録を行うかどうか、選択する自由が与えられているといわれています。しかし、それはあくまで税制の罠で、取引先を選ぶ側の企業としては、インボイスを発行できる課税事業者と取引すれば、仕入税額控除を受けられるため、インボイス制度が導入されると、業者は課税事業者の個人事業主を優先的に選ぶ、ということも充分に起こり得ます。売上高一千万以下の免税事業者は、インボイス制度導入後も、免税事業者のまま事業は継続できます。確かに免税事業者であれば、消費税の納税は免除されますが、免税分がそのまま取引先への負担となるため、取引先に負担をかけ、そのことにより、自然と敬遠されてしまい、仕事が減ってしまう可能性は否めません。そのため、今現在私たち声優の業界でも、VOICTION のアンケート結果によると、何と27%もの人たちが、廃業するかもしれないという恐ろしい結果が出ています。

――しかも、手続きをして、自分の立場を一度課税事業者に切り替えると、翌年からは免税事業者の条件を満たしたとしても、消費税の納税義務が発生してしまうんですよね。

岡本 確かに「企業側にとって、控除が受けられなくてもバリューがあるぐらいの有能な事業者になればいいではないか」という論調もあります。ですが、長きにわたる不況の中で、声優や末端の事業者が価格を上げようとしてもそれは無理な話です。現実には収入が少ない、社会経験もまだ未熟な若い声優たちには、課税業者になる為の手続きやその後の煩雑な経理事務など、本業以外での事務時間が莫大に増えてしまい、本業を疎かにするか、お金がなくても税理士を雇うかの苦しい選択になってしまうことでしょう。いつからか日本社会は、私たちが学生時代までの「一億総中流社会」と呼ばれていた頃とは、すっかり姿を変えてしまい、格差だけが広がり、税制も福祉も、弱い者がさらに追いつめられ搾取され、大企業や資本家などばかりが優遇される、とても生き辛い社会になってしまっているのが現状です。

――消費税も、80年代の導入前は、福祉税などといった名前を纏って、国民を騙そうとしていました。今でも増税のたびに「福祉の為に使うのです」とアナウンスしていますが、実質その増税で補っているのは、軽減した大企業の法人税の穴埋めだったり、全く福祉には向かっていませんね。

岡本 そこはもっと行政側も詳らかにして欲しいものですよね。コロナ禍から始まった自粛の連鎖もあって、私たち俳優が芝居や公演を行うはずの、小劇場やライブハウスは、今もコロナの第 7 波で公演中止が相次ぎ、7 月だけで 128 公演 676 ステージが中止され、大打撃を受け続けています。ですが政府からは、何の宣言も出ていないので補償もありません。このままインボイス制度が施行されてしまうと、日本の伝統・文化・芸能が一気に衰退し、廃業者で世の中が溢れることになります。また、インボイス制度は新人や新規参入者には高いハードルとなり、若い芽が育つ前に腐らせ、各業界の成長も止めてしまうことになります。一度潰えた文化・技術は元には戻りません。本当に大事なのは、この国に生きる一人ひとりの国民であり、この国の豊かな文化なんだと、私たち『VOICTION』は声明文を出して活動しているんです。

岡本麻弥さんが声優仲間と立ち上げた『VOICTION』は、様々な団体や個人事業主、フリーランスの応援の声を上げて、今国会へとその声を届けようとしている。

次回、「岡本麻弥アクトレスインタビュー・8岡本麻弥アクトレスインタビュー・8『岡本麻弥とインボイスの仕組みと生きるための戦いと』」です。 君は、刻の涙を見る……。

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