話を『乙種蹄状指紋の謎!』に戻すと、その執念が今回も全方位開放で放たれた。
 大滝刑事は「自分がこうであって欲しいと、願う事実」を証明するためだけに、全ての関係者や証拠に対して、手当たり次第に突撃をかまし、誰のどんな迷惑も厭わないスタンスで、関係者全員にしがみついて回った。
「おやじさん……いくらなんでもそろそろ……。指紋という証拠は覆らないんですよ」と常識的な(労わりも含めた)声をかける夏夕介。しかし、長坂の大滝に向かってそのアドバイスは、労わりをもたらすどころか、もはや火にガソリンを振りまく結果しか呼ばない。

『特捜最前線』刑事一覧「みんな特撮ドラマに出演したから『特撮最前線』」というギャグはもう五万人目

「うるさァいっ! だからそいつ(指紋の証拠)を調べてるんだっ!」
 夏夕介の「常識論」で、エンジンがフルブーストした大滝刑事は、そのまま捜査本部で、大声を上げてまくしたて始める。
「何だってんだよ! え? えェ!? 私が『眼鏡違い』でも、してるってェ言うのかィい!? 織本の事はねェ。君らなんかより私の方が! ずぅぅうっとよく知ってるんだよ! それを何だ!? お前ら俺を、そこいら辺の駆け出しのデカ扱いするってんのか!? 『下見して来た』だぁ? 『手口が似てる』ぅ? そんなもので一人の人間を、クロだと断定出来るのかァあっ!? 頭から疑って掛からなきゃならんのか!?」

 もはやもう、誰も「大滝さん、いや長坂さん。警察の捜査は『それ』じゃいけないんです」という、正論を言えなくなってしまう。
 しかし、さすがにそこで誠直也が馬鹿正直に尋ねてしまう。
「おやじさん。おやじさんがそこまで、織本を信じる根拠はいったいなんなんですか?」
 それに対して我等が長坂憑依中大滝は、こう大声で叫び答えるのだ。
「心だよ。『死を覚悟した者』の心だ! 織本は! 数日中に癌で死ぬっ!」

 脚本家が紙の上の神であるなら、ここでその神によって描かれているのは、もはや「大滝刑事の、真実への情念」などではない。  これは既に「科学分析とデータで人を拘留し裁く、社会の警察司法システム」へ向けた、長坂本人による、果て無き挑戦状であり、宣戦布告であるのだ。
 そこで繰り広げられている神々の戦いは「完璧な科学捜査証拠と常識VS命を盾にした情念」のハルマゲドンなのである。ここでの大滝刑事が「憑依した長坂」であるのだとしても、他の、労った夏夕介も、正論の誠直也の切り返しも、長坂の筆が生んでいるのだ。その「神」が、何が何でも横車を通すために、他の刑事にわざと労わせ、わざと尋ねさせ、そこへもちこんだ「癌であと数日の命だから」という、あまりにも卑怯な飛び道具!

 無論「神の手のひらの上で踊るしかない登場人物達」は、大滝の持ち出した飛び道具には逆らえず、根気良く捜査を継続することになるのだが、その結果、もちろん真犯人が別に見つかり逮捕され、無事事件は解決する。
 全てが終わり、本郷功次郎が苦笑しながら言う。
「いや。親父さんが、あれ程までに言う事だからさ。俺も信じてみようって思ったんだ」

 多分おそらく「長坂が憑依した大滝刑事」には『西部警察』の大門軍団ごとき「駆け出しのデカ」の徒党が、いくらダイナマイトや手榴弾を爆発させようとも、ミサイルランチャーを駆使しようとも、止めることができないエネルギーが熱く煮えたぎり、常に暴走の機会を伺っているのだ。

 この「核弾頭でも止められない、長坂憑依大滝」は、特捜側刑事の一人の、仮面ライダー・藤岡弘の兄の悪徳弁護士・岸田森も追い詰め(どうでもいいが、この兄弟は全く似てない……)第94話『恐怖のテレホン・セックス魔!(監督はまたしても天野利彦)』ではついに、他の刑事の出番など、殆ど皆無な一時間を生み出し、長坂が憑依した大滝刑事が延々、西田健演じるテレフォンセックス魔を追い続ける。大滝は西田を捕まえて「貴様ぁ! 『奥さん、テレフォンセックスしましょうよぉ』とか言ったんだろう!? おォい!」と、フルパワーで取り調べるが、逆に、取調室でポケットに持ち込んだ携帯型録音機で西田はその、大滝の声を録音。張り込み先で鳴った電話を取った、主婦と大滝刑事の耳に聞こえてきたのは、他の誰でもない、大滝自身の声の「奥さん、テレフォンセックスしましょうよぉ!」
 主婦は狂乱(そらそうだ。テレフォンセックス魔に怯え続けて、警察に張り込んでもらってたら、そこで鳴った電話から聞こえてきたのが、今、目の前で「私は刑事です」って言ってる、老人の声だったんだから(笑))ここまでプライドと正義感をズタズタにされた以上、大滝(と、神である長坂)は、もうそんな西田を許しはしない。絶対に許さない!
 かといって『西部警察』のように、銃弾で蜂の巣にするような真似も決してしない。
 『西部警察』には『西部警察』ならではの解決法があるように、長坂『特捜』には、長坂『特捜』ならではの解決法があるからだ。

 クライマックスは、そんな大滝刑事(当時54歳)が(今度は物理的な意味での)全エネルギーを開放し、なんとその犯人と商店街を舞台にして、まるでシルバー仮面(1971年)第7話『青春の輝き』(脚本は上原正三!)での、シルバー仮面とキマイラ星人の戦いのように、肉弾戦で決着をつけるのだ!
 『Gメン'75』(1975年)倉田保昭でも、『俺たちの勲章』 (1975年)松田優作でもない! 嘘のようだが本当の話なのだ!
 そもそも『特捜最前線』であるならば、それまでに特撮ヒーローを演じてきた若い役者の刑事が、それこそ掃いて捨てるほど頭数が揃っているだろうに、こともあろうに大滝秀治のリアルファイト肉弾戦で、この捜査は決着するのだ。

次回『犯罪・刑事ドラマの40年を一気に駆け抜ける!(70年代をナメるなよ)』Part6へ続く

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