ガンプラの始祖として、この1/144ガンダムが語られる時、必ずといってよいほどに「かつてのロボットプラモデルではありえなかった、劇中のプロポーションとアクションを両立追求した商品仕様の斬新性」が取り上げられるが、それと同じことは、1/144ガンダムと同時に発売された、ベストメカコレクション『闘士ゴーディアン』(1979年)にも共通している。ちなみにこちらはベストメカコレクションNo.3で、1/144ガンダムがNo.4で、No.5はなぜかガンダムのジオン軍戦艦・ムサイ1/1200となっている。

一方、同時に発売されたのが1/100 ガンダムであり、こちらは他のベストメカコレクションが、ポピー版権の超合金ブランド玩具をプラモデルで再現するコンセプトなのに対して、ガンダムだけはクローバーのDX合金ガンダムが“実物を模型化する”プラモデルとしての模倣元になった。
それゆえ、腹部むき出しのコア・ファイターや謎のロケット砲(しかもスプリングで弾が発射出来る玩具機能付き)や、可動箇所の少なさは、むしろこれは「クローバー合金モデルのプラモデル化」とみるべきであり、ガンプラがその後、当たり前のようにリアル路線に移行していく未来を知る由もなかった当時の関係者やバンダイにしてみれば、ごく当たり前の仕様の使い分けだったのである。

しかし、ここはMiddleEdge『ガンプラり歩き旅』の方で詳細を語らせてもらったが、1/100 ガンダムは、後のリアル志向モデラーに嘲笑されながらも、後のどのガンダムプラモデルにもない、どのガンダムプラモデルも捨て去ってしまった「全ガンダムのプラモデルの中で、唯一正解」の伝説をいくつか持っている。それは「アニメ設定どおりの足の裏」であったり「実はアニメのメカ設定ではこちらの方が正しかった“腹部コア・ファイターむき出し式”」であったりした。

また、ガンダムのメカデザインはもちろん大河原邦男氏なのは当然であるのだが、『勇者ライディーン』(1974年)の頃から、特に安彦良和氏が作画監督を務めるロボットアニメでは、届いてきたメカデザインを、安彦氏がクリンナップすることで、アニメの人物キャラや風景などと融合し、アニメーターも描きやすくなり、ロボットの表情も安彦風になってアニメに馴染むという通過儀礼があるが、こと「ガンダムの顔」特に「ガンダムの目」に関して言及すると、ガンプラブーム中期以降のガンダムの頭部や表情等の造形は、全てもちろん大河原画稿デザインに近いのであるが、目の5角形の形の問題や表情の付け方など、(近年になっての、嫌味のような「アニメ版」を謳ったガンダムフィギュアは別として)どのガンダムも再現しなかった「安彦顔のガンダム」を、最初にしていきなり、1/144と1/100は当然のように作っており、それでもまだサイズと技術の問題で、小さいがゆえにディテールが甘かった1/144と比較すると、1/100ガンダムの顔は、まさしく「これが唯一にして最高峰の“テレビのガンダムの顔”」であると、今でも言い切れるのである。

そして2サイズのガンダムの翌月、ベストメカコレクションで発売された「3つ目のガンプラ」は、ザクでもガンキャノンでもなく、300円サイズの敵戦艦・1/1200 ムサイであった。
その理由が「ガンプラ以前で一番売り上げを誇った、バンダイのアニメプラモシリーズが、『宇宙戦艦ヤマト』の艦船プラモシリーズ・メカコレクションだったから」というのも有名である。

ガルマ「この化物がぁー! おちろ! おちろ!」
アムロ「隊長機か?」
アムロ「う! 連邦軍の輸送機?」
マチルダ「そこのモビルスーツ! きこえるか、山をこえると、ガウの餌食になる! ホワイトベースに戻れ!」

原図の出図は、翌月発売の1/144シャア専用ザクとほぼ同時というか、むしろ、そのシャア専用ザクより一日遅い4月23日であり、その原図を手掛けたのは『宇宙戦艦ヤマト』艦船プラモデルでも凄腕を発揮していた八木技師

設定画に忠実で、かつスケールモデル並みにシルエットや構造が正確という、ヤマトメカコレクションシリーズで培われた固定モデルのクオリティは、この後、モビルアーマーのプラモデルなどにも受け継がれ、艦船やモビルアーマーはそれゆえ、21世紀になっても、ガレージキット的立ち位置のEXモデル等の高価格帯商品でリファインされた以外は、正規ガンプラではどれも、この時期の商品で充分な出来を今でも保っている。

ちなみにベストメカコレクションは、このNo.4 1/144ガンダム、No.5 1/1200ムサイ、No.6 1/144シャア専用ザクの後は、『ウルトラマン80』地球防衛隊UGMの戦闘機が、No.7スカイハイヤー、No.8シルバーガルと続くことになる。つまりそもそも“そういうラインナップ”の商品カテゴリの中から、生まれたのがガンプラなのだ。

というわけで、ガンプラだけが突然変異のように出現したわけではないということを、知らない人が多すぎるので誤解を呼んでしまうが、ベストメカコレクションは上記したように「劇中作品準拠の300円サイズ」と「デラックス超合金同等ギミックの700円サイズ」の二段階で商売をしていた
なので、確かに1/144と1/100のガンダムの方向性の別れ方は、当時のバンダイの迷いと模索の表れなのだという現代的な解釈は、一方では正しいのではあるが、“ガンプラはもともと、ベストメカコレクションというシリーズのラインナップの一つだった”という歴史的事実を振り返る時、バンダイがただ迷っていただけではないことが判明する。

もちろん、思春期ファン層を中心としたユーザーは1/144のリアリズムを選び、やがてガンダムシリーズだけが、ガンプラとしてベストメカコレクションから独立していった先では、1/100モビルスーツプラモデル群も1/144フォーマットを踏まえた統一仕様になっていく。

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