ファンの力

松竹での試写会から「アニメ新世紀宣言」イベントまでの道程を、富野監督は自伝でこう記している。

制作した当事者たちは、僕を含めてよく分かっていないのだ。ただ、僕が「ガンダム」でやろうとしたことは、本当のドラマ作りを考えたいということである。フィクション世界のオリジナルに挑戦してみた。だから、チビを相手にしなかった。多少、ドラマを知るべきヤングにターゲットをあてていた。
過去にもいろいろなスタッフがそういう目的を設定してメカ物、ロボット物を創ってはきたが、世間は認めようとはしなかった。だから認めさせたいのだ。
映画化に当たって、日本サンライズに宣伝担当として助っ人に来てくれた野辺さんが、その僕らスタッフの思いを端的に表現してくれた。
「それは間違いではないのです。ですから、アニメ新世紀宣言なのです」
「なんだ? そりゃ?」
「ファンだけに、『ガンダム』を知っている人だけに知らしめるために、ファンを動員するのではないのです。ファンの力を借りるのです。集まってもらう。それによってアニメが分化し始めたいうことを、世間に知らしめるのです。そのためには、一度でよいのです。イベントを仕掛けなければ、マスコミも世間も『ガンダム』を黙殺します。他のロボット物でドラマがあったことを認めさせた作品がありますか? そのために宣伝担当として、新宿で新世紀宣言をやらせてもらいます。マイナー志向を主張なさるのは、ご自身が傷つくことを恐れているからだと思われます。自身を持てとは申しませんが、『ガンダム』を成功させなければ、またアニメはチビのものというレッテルを貼られます」
「仰々しいのよね、そんなの。実体のないイベントなんて罪悪です」
安彦君は、はっきりと怒っている。僕だってそうだ。だいたい本当のイベントを行うのなら、イベントらしい内容を持たせて、集まってくれた人に対して損ではなかった、きてよかったと思わせなければならない。
「中味なんてないんでしょう?せめて声優さんの全部を集めるとか、実物大のガンダムを動かしてみせるとかしてやらなくっちゃ、イベントじゃあない」
「だいたい『ガンダム』は、イベントなんてものが必要な作品じゃあないんだ。作品がある。それだけでいいんだ」
僕と安彦君は抵抗した。
「承知いたしております。しかし、しかしファンが集まってくれるというだけでよいのです。それがイベントそのものの内容です。 ファンにはポスターをやるということで、釣りました。申しわけないと思います。しかしです。これをやらなければ、世間は分かってくれません。マスコミは取り上げてくれません」

アニメージュ文庫『だから僕は…』富野由悠季著

この嫌悪感を、払拭させたのは誰でもない。当時ガンダムに熱狂していたファン達の「数と熱意の力」であった。

2月22日に行われた「アニメ新世紀宣言」は、公称20000人(実際は15000人とも言われている)が集まった。運営側はパニックを恐れて、イベント開始時刻を早めて対応した。
その後、3月1日に、東京をはじめとした5大都市で行われた一般向け試写会でも、指定席のみの観覧限定にもかかわらず、徹夜組が出るなど熱狂は治まらず(そう、当時のアニメ映画やヒット輸入映画等では、公開初日等でファンが徹夜で並ぶのは、社会通念がまだ甘かった時代性もあって“当たり前”のことだった。かくいう筆者も1982年春の『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』では、渋谷松竹前で徹夜したものだ)、3月14日の公開初日では、新宿松竹では午前8時の段階で800人の長蛇の列が並び、新宿ピカデリーに至っては数千人のファンが徹夜で押しかけ、劇場関係者は上映スケジュールを急遽前倒しして午前4時30分から対応したという。

カイ「うわっ こんな近くに!」
カイ「うわーっ!」
リュウ「ハヤト! 敵のモビルスーツは二機らしい。これ以上、ホワイトベースに近づけるな」
ハヤト「は、はい!」
ヒッチ「今だ!」

ハヤト「リュウさん! キャタピラーがやられました!」
リュウ「こ、このお!」
ハヤト「ザク奴! リュウさん! ガンタンクの上半身を強制排除します! いいですか」
リュウ「強制排除だと!?……。お前はどうなる!? ……動けんぞ!」
ハヤト「戦力は無駄には出来ません! リュウさんはコア・ファイターで、アムロを呼びに行ってください!」
リュウ「よ、よし、判った。お前の言う通りかも知れん! 行かせてもらうぞ。コア・ブロック発進!」

リュウ「ハヤト! 気をつけてな! カイ、ハヤトとホワイトベースを頼む!」

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