続く第14話『脳波ロボットの秘密』では、ロボット工学専門家の父を独立幻野党に拉致された娘・福永美千子(演ずるは松木聖)が、平然としてる弦太郎・五郎コンビに向けて「貴方達にはお父様やお母様はいないんですか。もしいれば私の気持ちが分かる筈よ」と怒鳴るのだが、それに対して「そんなもん忘れちまったよ」と答える弦太郎。美千子は「貴方それでも人間なの!?」と弦太郎の頬を叩く。
 ここまでくれば読者諸氏もご存じのとおり、弦太郎には父や母どころか、人間らしい温もりへの思い出もなく、五郎に至っては物理的に既に「人間ではない」。それを知らない美千子が二人を「その言葉」で責めるのは自然な流れではあるのだが、その言葉は、弦太郎と五郎の二人の「それぞれの一番の闇」をえぐる効果を併せ持つ。
 美千子はその、自分の言葉の残酷さには決して気付かない、気付けない。「平和な社会で生きる一般人」からすれば、そんな存在がいる事など想像できないからだ。
 しかし、その後展開される、弦太郎と五郎による決死の福永博士救出作戦の中で、娘と研究の秘密との二択を迫られた福永博士は、自らの命を絶つ道を選び自殺をする。
 ラスト「これで、私も貴方達と同じ、父も母もない子になりました」と語る美千子の元から去り、また「戦争」へ向かう弦太郎・五郎コンビ。 

代替テキスト


 この話は、佐々木氏が用意した(劇中では特に言及されない)弦太郎と五郎の設定を知らない普通の視聴者からしてみると「とある科学者の娘の悲劇」として終わるのだが、実際は「父も母も知らずに生きてきた弦太郎」と「もう人間ではない五郎」が、自分達と同じ存在を、自分達の戦いの中で作り上げてしまったという悲劇なのである。
 そういった「作品からは伺えない設定を、作劇の裏にほんの少し反映させる」手法は、佐々木守氏が脚本を書いた『怪奇大作戦』『死神の子守唄』(1968年)にも表れている。その話では、若い女性ばかりを襲った謎の連続殺人事件が発生、それを追うのは我らがSRI。その中で岸田森氏演ずるSRI捜査官・牧は、一人の若き科学者・水野(演ずるは岸田氏と、同じ劇団の六月劇場所属だった草野大悟氏)に目を付ける。科学を使い、科学に殺されかける妹を、自らの科学を使って救おうとした水野に向かって、必死に呼び止め声を掛け、空虚な説得を続ける牧。
 しかしその牧は、佐々木守氏による『怪奇大作戦』設定書では、科学によって父を失った、鬱屈した科学者としてバックボーンが描かれているのだ。
 『脳波ロボットの秘密』での、弦太郎と五郎が抱える果てしないやるせなさと、『死神の子守唄』で水野に向かった牧が抱えた自己矛盾は、単純に観ている視聴者には伝わらず、むしろ裏設定を知らない視聴者にとっては物語がシンプルな構図で見えるように、分厚いコーティングが施されている。
 これは決して昨今の「裏設定マニア向け深夜アニメ」の技法とは違い、送り手が「作品に込める情報量の厚さ」を狙ったプランニングである。
 実際『死神の子守唄』の岸田森氏も、『脳波ロボットの秘密』での石橋正次氏も、複雑で深遠な設定を消化して内面からほのかに香るレベルの演技で、シーン演出に深い味わいを加えているのだ。

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 初登場時には「大の虫を活かすためなら小の虫は殺す」と言い切っていた弦太郎だったが、第15話『マラソン怪獣カプリゴン』では、無医村の村に居座る女医・和子(京春上)に被害を負わせないために怪我をおして虚勢を張り、命を賭けて和子と病院を守ろうとする。
 「五郎、この人を頼むぞ」弦太郎はそう言い残して「戦争」に立ち向かうようになる。
 しかし、怪我を負った弦太郎を見捨てられない女医・和子は戦いの場に立ち入ってしまい「患者を守るのは医者の責任」と言い切り(この時弦太郎は二度目の「さん付け」で女医を「和子さん」と呼び叫ぶ)テロリストに向かい、その銃弾で命を落とす。
 泣きもせず、挫けることなく、重傷の身でロボット怪獣とテロリストを倒す弦太郎。
 ラスト、和子の遺体を抱きしめた弦太郎は「この人を殺したのは俺だ」と口にする。
 弦太郎の中に、新たに「原罪」が刻み込まれると共に「さびしさ」が生まれた瞬間だった。

 続く16話『トラギラスを倒せ!』で登場する女性は、前回の女医と同じく聖職者の「教会のシスター」である祥子(水沢有美が演じる)。祥子は独立幻野党が、教会の子どもをさらった事に関して「私の責任なんです」と訴え「神を侮辱することは許しません!」と弦太郎にも食って掛かる。
 両話のゲスト女性に言えるのは、ストイックなまでに「神聖な職業の理想」に殉じ、戦争という現実に直面しても、自分の「成すべきこと」に最後まで徹する「女性の強さ」。
 ここでも弦太郎は、人質の子どもを助けるために自らを危険にさらす。明らかに弦太郎は「人間になろう」とするプロセスに至っているのだ。
 「ゆき子の死」がONにした「人間として生まれ変わろうとする弦太郎のスイッチ」は、確実に、その後出会う人々や女性達との関わりの中で機能して、弦太郎を「戦闘機械」ではない「愛すべき戦う男」へと変えた。
 そして「その変化」は、弦太郎をして拳で五郎に「人間に戻れ」と殴らせるに至る。
 それでも弦太郎は全てを背負おうと孤立へ向かう。

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