果たして「ザク」は「雑魚」だったのか?

スーパーロボットとしての『機動戦士ガンダム(以下『ガンダム』を語る2回目。
前回で「『仮面ライダー』(1971年)でいえば、ザクが戦闘員で、シャア専用ザクが怪人」という例え方をしたが、大気圏突入後、舞台が地球上に移ってからは、ジオン軍の地上主戦力が、戦車のマゼラアタック、戦闘機のドップファイターがメインであり、決してザクは、スーパーロボットまんがの敵メカの中の最下層雑魚(余談だが、ザクのネーミングは、軍靴で土を踏む音の、ザクッザクッからきているとされているが、ひょっとすると当時は、この“雑魚”メカという、当時の業界内専門用語を被らせたのかもしれないと筆者は思っている。『ガンダム』ではほかにも、トリアーエズなどという冗談のような“とりあえず”のネーミングもあるし、業界内専門用語を逆に堂々とネーミングするというパターンも、この後『戦闘メカ ザブングル』(1982年)の“戦闘メカ”で、富野由悠季監督はやってしまうのである)なだけの存在ではなかったことが、下位互換性のあるジオンの主力メカの登場によって証明される。

それまでは、あくまで舞台が宇宙であったため、この時点では宇宙での機動兵器は、ホワイトベースの3機のモビル・スーツとコア・ファイターしか登場していない連邦にとって、ザク自体が脅威であったというパワーバランスが貫かれるのではあるが、その辺りの考証はきちんと踏まえられていて、この戦争の中期では、宇宙の制空権を完全にジオンが掌握しており、連邦の砦は唯一、ルナツーが戦略的にはジオンにとって無価値とし放置されているだけであり、ほぼ宇宙はジオンの手に落ちていた形になっていたが、ジオンは元々月の裏のサイド3しか拠点を持っていなかったため、地球上の重力下での兵器の開発力はあまり高くないため、奇妙でアナクロイズムもあり、また奇異なデザインシルエットを持つドップファイターとマゼラアタック、そしてガウ攻撃空母が主力でしかなかったのだというグラウンドデザインが、作劇にも徐々に影響してくる。

主役ガンダム側のホワイトベースの面々は、基本的には素人少年少女の集まりだが、序盤から大気圏突入まで、強敵・シャアの猛攻をアムロのガンダムが退けるという図式で、生き延びてこれたという認識を、地上に降りてからの戦闘構造で、改めて視聴者は認識することになる。

シャアの誘導によって、地球連邦軍の拠点・南米ジャブローではなく、ジオンの勢力圏内、北米に誘い込まれたホワイトベースだが、そこでシャアが二重の意味で罠をかける相手、ガルマ・ザビは「地球方面軍指揮官」という肩書。
しかし、保有戦力はマゼラアタックとドップファイターが基本であり、ガルマも自分専用のザクを保有しているという設定は台詞でのみ描かれるものの、実際にはカラーリングを変えた自分専用のドップファイターが画面に登場したのみ。

前回も引用したここでのシャアの台詞などが、ガンプラブームにおいては、ガルマ専用ザク、ドズル専用ザク等の、個人機というMSVを生むトリガーになるのだが、そこで、ドップファイターとマゼラアタックの大量物量戦力に対して、ホワイトベースは、ようやくこのタイミングで、カイ・シデンのガンキャノン、ハヤト・コバヤシとリュウ・ホセイのガンタンクを実質メインの戦力で投入し、ここまでじっくり描いてきた“民間人少年主人公・アムロが一人単独で、ガンダムで獅子奮迅の活躍をして、シャアを退け母艦を守る”構図から、スーパーロボットアニメとしてワンランク上の構成にステージアップする。

ちなみに、地上戦になるまでガンダムが単独運用されていた理由は、サポートのメカニック体制の不備もあっただろうが、パイロットとしてのメインキャラになるべきアムロの他の三人が、リュウ以外はやはり民間人の素人であったため、アムロと同じように出撃させてそれなりに活躍させてしまうと、アムロのスペシャル感、それはスーパーロボットまんがとしては必須のカタルシスであるのだが、『ガンダム』の場合、マチルダ中尉が第9話で言い放ったこの台詞。

マチルダ「あなたの斗いがなければ、私たちもやられていたわ。ありがとう、……あなたはエスパーかも知れない……」

日本サンライズ『機動戦士ガンダム 記録全集 台本全記録』

ここを踏まえて、『ガンダム』後半の、テーマの核ともいうべき“ニュータイプ”という概念へつながっていく。

敵メカ的には、前述した戦闘機と戦車の数の力を前面に押し出し、戦争が質ではなく数で決まるという側面を打ち出しながらも、『ガンダム』は、“新敵幹部”としてのガルマとの戦いを前面で展開させつつ、メカ的には第6話『ガルマ出撃す』でガンタンク、第7話『コアファイター脱出せよ』でコア・ファイター、第8話『戦場は荒野』で、サポート輸送汎用ポーターのガンペリー、第9話『翔べ!ガンダム』で、ガンキャノンを、それぞれメカ機能性まで綿密に描く事で、本来ホワイトベースがどのレベルの戦力を有しているのかをじっくり明らかにしていくプロセスを辿った。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事