そしてドラコ。

『怪獣無法地帯』であれば、チャンドラーのところに位置する飛翔型怪獣。

本来であれば、物語主役の怪彗星ツイフォンから飛来したのはこの怪獣なのだし、三匹登場する中で、唯一完全新規のデザイン・造形の怪獣なのだから、普通に考えればドラコが主役になっても良いはずであるのに、既に皆さんご存知のように、本話の主役は地球怪獣代表のレッドキングにとって代わられた。

同じように「新規造形怪獣が負けてしまい、改造怪獣がウルトラマンと戦う」パターンは、『悪魔はふたたび』などでも見られ、そこには常に、次に何が起きるのか、次にどんな怪獣がどんな活躍をするのかという部分において、サプライズを忘れない、高品質な姿勢を見て取ることもできる。

怪獣のデザインや造形、もしくは当事の怪獣図鑑事情に詳しい方ならご存知のとおり、このドラコは、元は左手が巻尺のような鞭状態でデザイン・造形されていたが、現場における撮影操演の事情で、撮影時には両手が鎌というスタイルに落ち着いた。

ドラコはただでさえ羽根があるので、操演スタッフがそちらに取られてしまい、鞭を演技付けるには至らなかった事情もあるのだろう。

「宇宙から飛来する怪獣」という脚本ニーズに対して、成田亨氏が出した回答は、鳥でも海中動物でもなく、昆虫の意匠だった。

全身に貼られた格子状のテクスチュアは、四肢の先端へ向けて先鋭化するように編まれており、角や嘴、結果的に両手に装備されることになった鎌や尻尾に至るまで、とにかくスパルタンな鋭さを念頭に入れた怪獣デザイン・造形である。

尻尾の先端が赤く塗られているのは、やはりここも昆虫を意識したからか、広げた羽根も、昆虫よろしく葉脈のような筋が張り巡らされている。

そしてギガス。

その名前が、西洋で巨人を意味するGigantesから取られたことからも解るとおり、明確に、類人猿タイプの雪男をモチーフにした怪獣。

造形は、下半身をヒドラの着ぐるみから流用しているが、ドドンゴ、ウー、テペトなどと同じく、初期ウルトラには珍しいタイプの、既存の空想生物を取り入れたデザインで成立している。

思えばヒドラもまたその名前の出自は、ギリシア神話のHydraでもあるわけで、この時期のウルトラ怪獣は、日本民俗的な概念から、古代中国や西洋神話的の意匠までをも、およそ人類が産み落とした全ての異形なる神々を、取り込もうとした形跡がみられる。

怪彗星が飛来したことに、端を発するエピソードなのに、決してその彗星の怪獣が主役でない辺りは、飯島監督が常に疑似科学に気を配りつつも、それを絶対的なエクスキューズにしない所以であり、その辺りはマックスの『ようこそ!地球へ』前編の序盤、タイニーバルタンが巻き起こす様々なファンタジー現象に対して、ヨシナガ教授が逐一科学的解説を差し挟むものの、ことごとく的外れな辺りにも顕著であろう。

それは特撮演出にも現れており(それは脚本に忠実かつ確信犯的なのだろうが)、ツイフォン接近から始まったクライシス描写が、彗星怪獣の異名を持つドラコ出現へ直結するのに、実はドラコが主役ではないのだという流れは、映像セオリー的には、その直前にギガスが出現している時点で肯定されて成立している。

冷凍怪獣ギガスが先に登場している時点で、本話は決して、彗星の到来が生んだドラコの脅威を描くのではなく、ツイフォンのもたらした災厄そのもののスケールが、単体の怪獣ではなく、「次から次へと怪獣が目を覚ます状況」そのものだったのだということを、明白化するのである。

これは、こここそが、まず怪獣達の楽園的秘境がまずかくありきだった『怪獣無法地帯』とは、明確に違う部分であり、だからだろう、多々良島ではそれが怪獣達にとって「普遍的な環境」だったからこそ、単発的にしか巻き起こらなかった怪獣同士の対立や戦いも、本話を取り巻いているのが「ツイフォンが巻き起こした状況」ゆえに、三匹の怪獣達は、ツイフォンによって初めて一堂に会して、そこでようやく本能の戦いを繰り広げるのである。

いわば、ここで登場する三匹の怪獣達にとっては、その互いと合間見える状況が、そもそも自分達にとっては日常的なことではないわけであり、例えるなら、レッドキング、ギガス、ドラコ三者共々、ツイフォンに巻き込まれた形なのである。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事