ウルトラシリーズの名作は、後年(特に第二期において)何度かリメイクされることが多い。

例えば今回の話を例に取れば、本話のコンセプトは、上原正三氏が『帰ってきたウルトラマン』(1971年)『恐竜爆破指令』において「子ども達の怪獣への思い入れ」という角度からアプローチしているし、三次元化して成長していく二次元の怪獣と、それを見守る子どもの邂逅というモチーフそのものも、『戦慄!マンション怪獣誕生』で再構築してみせている。また、落書き怪獣という設定は、『ウルトラマンタロウ』(1973年)でも、『母の願い真冬の桜吹雪』という話で、当時新人作家だった阿井文瓶氏が使用していたりする。

かように、ウルトラの名作というのは、何回も世界観やテーマを変えてリメイクされるのが常であり、それは例えば『ウルトラセブン』(1967年)『超兵器R1号』が、『ウルトラマンタロウ』の『これがウルトラの国だ!』になったり、『ウルトラマン』(1966年)『小さな英雄』が、やはり『ウルトラマンタロウ』の『逆襲!怪獣軍団』になったりといった具合である。

特に第一期ウルトラは、その設定や視点が、ひときわオリジナリティに溢れた作品が、多々見受けられていて、後年のシリーズが袋小路に入ったり、煮詰まったりしたときには、原点回帰の意味も含めて、リファインされることが多かった。

しかし、今回の佐々木守・実相寺昭雄コンビが本話の後に放った『故郷は地球』に関しては、その根底的視点にウルトラマン、ひいては勧善懲悪怪獣物に対して、禁じ手ギリギリともいえる価値観が根ざしているため、半端なリメイクは、恐れ多くて出来なかったというのが正解らしく「人間が極限状況の孤独の中で怪獣化して、人間社会を襲う側にまわってしまう」というジャミラパターンのコンセプトは、例えばウルトラ以外の『シルバー仮面』(1971年)で、あの市川森一氏がジャミラの話の変形譚とでもいえる『一撃!ハンマーパンチ』を書いたくらいしか、筆者には記憶がない。

「人間の怨念や極限の魂が、怪獣という実体になって社会を襲う」

このコンセプト自体は『ウルトラマンA』(1972年)のヤプールに通ずるし、もうちょっとソフィストケイティッドすれば、『ウルトラマン80』(1980年)で描かれた、マイナスエネルギーの怪獣にも通ずる。

それは「悪の組織に拉致されて悪い怪獣(怪人)に改造されてしまった」という70年代ヒーロー物の王道とは微妙に、しかし明確に主旨が違い、むしろジャミラのエピソードパターンは円谷プロにおいては、『怪奇大作戦』(1968年)にその例が多く見受けられる。

やはりこれも市川森一作品だが、『怪奇大作戦』『光る通り魔』に登場した山本は、孤独と怨念の中から自らの姿を変えて、復讐と怨念の権化と化す。

この作品を共同執筆した、上原氏と市川氏の中にあっては、「復讐」「怨念」の定義はまた微妙に違うのであるが、共にそれは、自分を孤独に追いやった当事者に対する、直線的な魂の暴走であった。

しかし、佐々木・実相寺コンビが描いたジャミラは、自らを孤独へ追いやった当事者達へは、その復讐の刃を向けはしなかった。

「イジメという環境の中にあっては、イジメを受けた被害者にとって一番憎むべき存在なのは、自らをいじめた当事者達ではなく、そのイジメを遠巻きに眺めながら知らぬフリをして、余所余所しく振舞い、無関係で居続けようとする善意の第三者なのだ」と、言わんばかりの描写で佐々木・実相寺コンビは、ジャミラに何も関係ないはずの「平和な山村」を燃やし尽くさせる。

そんなジャミラへの、心情的シンパシィをイデというキャラに託した佐々木・実相寺コンビに対して、メインライターでもあった金城哲夫氏からのアンサーとも言える物語が、番組最後半の『小さな英雄』であったということは、特撮評論家の各評論で既出だが、そこでの金城氏はあくまで、『故郷は地球』という作品のテーマにではなく、そこでジャミラに対してシンパシィを感じた、イデというレギュラーの心情変化に対し、軌道修正を試みたという形であった。

ではその金城氏は、自分が築いた理想の「光溢れる世界」に対し、佐々木・実相寺がサディスティックに、嘲笑的に働きかけた「揺さぶり」に対しては、どう受けとめていたのか。

「ウルトラ」という場において、佐々木・実相寺作品という存在は、金城氏にどんな変化をもたらしたのか。

ここで興味深い没脚本を紹介したい。

今回紹介するのは、金城氏が『ウルトラセブン』で執筆して没になった脚本である。

そのタイトルは『認識票NO.3』

それは今回紹介した佐々木・実相寺コンビによって、本話の後に作られた『故郷は地球』を考察する上で、非常に考えさせる内容になっているので、ちょっとここでそのプロットを紹介したい。

「ワイ星探検からただひとりの生還者であるキャプテン・マキノは、透明怪獣ジャッキーに襲われた。勇気ある探検隊長としてヒーローに祭り上げられていたマキノだったが、その裏では、ワイ星のクレバスに落ちた隊員たちを置き去りにして、ひとりで逃げ帰ってきていたのだった。マキノは生存者などいるはずもないと思っていたが、NO.3の認識票を持つ隊員がひとり、ワイ星の厳しい環境下で、魂だけの生命体になって生き延びた。隊員は、ワイ星に生息する怪獣ジャッキーを手なずけて、復讐のためにジャッキーと、地球へやって来たのであった。マキノの命を奪ったジャッキーは、セブンの手で倒される。復讐の終わった魂だけの隊員は、隊員の誇りだった認識票NO.3を地上に残し、宇宙の何処かへと去っていくのだった……」

『認識票NO.3』 プロット

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