「夜に入ってからも、科学特捜隊の探索は続けられた」
「この美しい星空だっていうのに、いったいどの星から来たのかしら。どうして国際平和会議を妨害しようとするのかしら」
「ムッシュアラン、さっきあなたは確かあの怪獣を見たとき、『ジャミラ』と言いましたね? ジャミラとはいったいなんなんですか?」
「ムッシュムラマツ、パリの本部で予測していた最悪の事態になりました」
「ムッシュアラン、もうここまで来たんです。あいつの正体を教えてください」
「諸君、あれは怪獣ではありません。あれは、いや彼は、我々と同じ人間なのです」
「それはアメリカ、ソ連を中心に世界各国で宇宙競争が行われていた時代だった。ある国で打ち上げられた人間衛星が、ついに帰ってこないという事件がおきた。その宇宙飛行士の名前がジャミラだったのである」
「しかし、科学のため人間を犠牲にしたことが判ると大変だ。その国は、ジャミラの乗った人間衛星の失敗を、全世界にひた隠しに隠してきたのである」
「そうか、そしてそのジャミラの乗ったロケットは、宇宙を漂流しているうちにどっかの星に流れ着いた……。しかしその星には、地球のような水も空気もない。だがジャミラはどうにかして生き延びた。しかし、その星の異常な気候風土の中で生きていくうちに、あんな姿に変わってしまったというわけか……」
「そうです。おそらく彼は何十年かかって、自分の乗ってきたロケットを作り変えたのでしょう。そして地球へ帰ってきたのです。地球の全人類に対する恨みと呪いの心だけを持って……」
「俺やめた! ジャミラと戦うのをやめた! 良く考えてみりゃ、ジャミラは俺たちの先輩じゃないか! その人と戦えるか!? 俺たちだってな、俺たちだってな! いつ、ジャミラと同じ運命になるか知れないんだぞ!」
「諸君! あらためて科学特捜隊パリ本部からの命令を伝える。ジャミラの正体を明かすことなく秘密裏に葬り去れ! 宇宙からきた、一匹の怪獣として葬り去れ! それが国際平和会議を成功させる、ただ一つの道だ」
「イデ、お前の気持ちはわかる。だがジャミラはいまや人類の敵になってしまってるんだ」
「ばっかやろう!!」
「あいつは火にはなんとも感じないのか!」
「ジャミラてめぇ! 人間らしい心はもう、失くなっちまったのかよ!」