佐々木守氏は戦前の石川県に生まれ。その土地で小学三年生の時に終戦を迎えた。

「僕はやはり天皇制こそが、日本の諸悪の根源だと思います。あの8月15日。それまで『神国日本は負けない!天皇陛下万歳!』などと言って、威張り散らしていた大人たちが、突然オロオロし始めた8月15日。僕の目には大人たちは、皆日本を駄目にした犯人に見えたんです」

佐々木守・談

そんな終戦直後からの日本社会を佐々木氏の筆によって、スイスイスーダララッタスイスイスイと、植木等氏演ずる日の本太郎に無責任に泳がせきったのが、映画『日本一の裏切り男』(1968年)だ。

東宝映画の王道健全娯楽路線として、ヒットしていた植木等氏のシリーズも、『野獣死すべし』(1959年)の監督・須川栄三氏と佐々木氏にかかると、なんとも不気味でブラックな「ピカレスクロマン映画」に仕立てあがる。

佐々木氏が大人に絶望した8月15日の玉音放送を「天皇陛下は我々に死んで来いと、ご命令なされたのである!」と勘違いした上官・大和(ハナ肇)の命令で特攻出撃させられた太郎は、生死不明の果てになぜかマッカーサーのお供となって、厚木基地に降り立った。

自分を見捨て、殺そうとした祖国日本で、太郎はありとあらゆる口八丁手八丁でのし上がっていく。

軍隊時代の闇取引で、戦後はヤクザの組長になった大和の前に何回も現れては、復讐のようにだまくらかして、彼を何度も丸裸にする。

朝鮮戦争特需やオリンピック景気。

日本の戦後史の裏を暗躍し、裏切り裏切られの連続劇。

最終的には70年安保闘争が吹き荒れる中「日本にももう一度軍隊を!」大和をそう主張する政治家に仕立て上げ、対立する政党両方から金を巻き上げる太郎。

クライマックスには反対デモが国会に突入し、しっちゃかめっちゃかの大乱闘へ。

そんな光景を見つめていた太郎は高笑いしながら国会議事堂のてっぺんに登りつめる。

ラストは太郎のこの一言。

「まぁ! だいたいこんな国だがね。決して損のない買い物だ! どうかね! ひとつ!」

そこにあったのは、圧倒的かつ、底知れない恐怖を伴った「無責任男」の真の姿だった。

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