合体ロボット演出の必然的導入
一方、では方やガンダム側はというと、21話から、3話連続して主役メカのガンダムは、合体ロボットの冠にふさわしく、戦場で空中換装(つまり、コア・ファイターとAパーツ、Bパーツの空中合体)を行っており、そこには毎回、苦しいものの演出上の必然性が加味されるのではあるが(リーダーのブライトが倒れ、臨時で艦長代行を務めたミライの判断ミス等)、そこでは無論、アムロのパイロット能力が高まってきたからこそ空中換装が可能であるというエクスキューズもあり、ガンダムとホワイトベースは、悪の一族のプリンス(ガルマ)の仇、以上の脅威として悪の組織(ジオン軍)に目を付けられるという流れが出来上がっていく。
しかし一方で、そこでホワイトベース側は、リーダーのブライトの代役を務めるミライの不慣れさを皆で補おうという結束力が(直前のリュウの死で)生まれ、『マチルダ救出作戦』は、エピソード自体は映画版『機動戦士ガンダムⅡ 哀・戦士編』(1982年)でカットされる単発話ではあったものの、ミライの代わりに的確な指示を出すセイラ。アムロのコア・ファイター。カイのガンキャノン。そしてハヤトのガンペリーが出動し(この時点でのガンダムは、SOS状態のマチルダ隊に駆け付けるだけの高速移動手段を持っていない。というか、むしろこの話で「その手段」たるGアーマーが届けられるという伏線の周到さ)、駆け付けた先で、アムロはすぐさまガンペリーから射出されるAパーツ、Bパーツと合体を開始。それを妨害しようとする、フライトユニット(モビルスーツを乗せて飛ぶメカ)ドダイYSに乗ったグフを、援護射撃で撃ち落とすガンキャノンという、見事なチームプレイがこの時点で完成しつつあることを、ロボットまんが演出で描いてみせる。
メインの量産型の底上げと飛行メカを得たジオンと、個々のモビルスーツの特性を引き出しきるチームプレイを得たホワイトベース側との拮抗。
その対抗インフレの中で、正義の味方側はついに合体強化メカ(Gアーマー)を、悪の組織側は新型メインメカ(ドム)を、ほぼ同じタイミングで登場させる。
ちなみに、Gアーマーは「ガンダムのパワーアップメカだ」と、作中第23話では次の用に、味方のレビル将軍からも、敵のマ・クベからも、仲間のハヤトからすらも、はっきり言及されている。
レビル「もう一つホワイト・ベースに届けてほしいものがある。連中は、また、モルモットにされるのかと怒るのだろうがな。ガンダムのパワーアップのテストを連中にやらせる」
日本サンライズ『機動戦士ガンダム 記録全集』『台本全記録』
(中略)
マ・クベ「よく知らせてくれた。……で、ガンダムのパワーアップは具体的には分からんのか」
(中略)
ハヤト「マチルダさんのもってきてくれたパワー・アップ・メカだ! ガンダムをのせられるぞ!」
しかし、当の富野監督は、雑誌『月刊アニメック』のインタビューで、Gメカがパワーアップメカであることを否定している(インタビューは第23話放映前収録)。
編集 ファンの間ではガンダムがパワーアップするという噂が流れているのですが本当ですか?
ラポート『冨野語録』富野由悠季インタビュー
富野 ガンダムそのもののパワーアップではありません。ただアムロがガンダムの性能をフルの引き出せるようになることとガンダム本体にいろんなパーツを取り付けていく部分的なものですね。ガンダムがあの形である限り基本的なパワーは変化しません。
ここでの「児童視聴者層向けの台詞回し」と「思春期ティーンズ読者向けの解説」の温度差が、『ガンダム』をして、誤解させてしまった要因であるともいえるのだろう。
悪のロボットの新型「ドム」と、その元ネタ
また、この時点での「悪の組織の敵幹部」はマ・クベの位置づけであったが、そこへ送り込まれてきたドムに、富野監督は相当思い入れと納得をしたらしい。
上記した『月刊アニメック』7号のインタビューで、続けてこう答えている。
富野 (前略)ザクなりグフ……そしてそのあと23話あたりで出てくるグフの後期タイプのドムっていうモビルスーツなどは面白いと思いますね。ドムの出てくる時点であきらかにモビルスーツは新しい時代に入ったってわかる型のもので、敵の戦力なり……技術力というものが見えて、やはりジオンは強敵なんだという意識が出てくるんじゃないですか。
ラポート『冨野語録』富野由悠季インタビュー
その上で、富野監督は、グフの失敗から生まれたドムを再考察して、ドムが一定の作劇小道具として完成度が高かったからこそ、ゲルググという最終決定版モビルスーツをジオンに開発させた(実際は自分たちがアニメ内で配置させた)経緯を語っている。
編集 ザクが対戦艦用の武器だったのに対してグフはガンダムに近いタイプの白兵戦用兵器のような気がするんです。そうすると、地上戦はともかく、宇宙空間での戦いは不便な武器じゃないかと……。
ラポート『冨野語録』富野由悠季インタビュー
富野 ええ、そういう意味で失敗です。つまり、あまりにも局地戦用に考えすぎたんですね。そしてその後に出てくるドムが地上用に作った型なんです。ところが、これは結局、今でザクとグフをいじってきたこちらの経験もありまして、具体的な機動力という部分での強化をしてみたんです。そうしたところこれが大変使い良いわけで……要するに宇宙――つまり無重力帯でも使える白兵戦用の機動力っていうものを持ってるんで、その感じがドムには非常に良く描けているわけです。ただ問題なのは、逆にこの機動力っていうものにやや重点を置きすぎたために、グフと同じような欠点が出てきます。つまりグフとドムの中間点をとったもう一つ違うタイプのものが発生せざるをえないでしょう。
筆者は以前、この連載で、ガンダムはクローバー玩具主役ロボットの系譜からすると「鎧も武具も取り払い、複さえも脱ぎ去った、褌と丁髷と顎髭だけの、背中に刀を2本差しした全裸の侍」という見立てをしたが、その視点で見るとドムは、まさに全身黒装束の忍者か虚無僧。
天蓋のような頭の形から、袴のようなシルエット。背中に刺したヒートサーベルは、まさにガンダムと対をなす、SFロボットでありながら、「時代劇的な悪役」の力強さに満ち満ちていた。
また、これは確証があるエピソードではないが、ドムを登場と共に印象付けた、黒い三連星の必殺技・ジェットストリームアタック。これもこれで、忍術の技のような気がすると昔から思っていたが、どうやら元ネタがあるという、まことしやかな噂も立っている。
それは時代劇の巨匠・三隅研次監督のビッグタイトルプログラムピクチャー『子連れ狼』シリーズの『子連れ狼 三途の川の乳母車』(1972年)からのインスパイアではないかと言われている。
この映画、ストーリー自体も、若山富三郎氏演ずる主人公・拝一刀と、公儀誤送人である天来三兄弟との対決を描いた、緊張感あふれる名編なのであるが、そこでの「天来三兄弟」がトリプルドムと重なる設定な上に、トリプルドムが繰り出してくるジェットストリームアタックが、むしろこの映画の冒頭の、二人の虚無僧が拝一刀に仕掛けた攻撃と殺陣に似ているため、濃いガンダムマニアであれば常識トリビアレベルで、この映画が認知されている。
そう思えば、『ガンダム』で名勝負と呼ばれたランバ・ラルのグフ対ガンダムのアムロで、互いが互いのコックピット付近をサーベルで斬ることで、コックピットが丸見えになり、互いが互いを認識するという流れも、時代劇などでよく見る演出である。
富野監督は、やはりここでもビジネスに徹し「子どもが“ガンダムごっこ”をやるときは、チャンバラごっこの要素を入れよう」を、高度に導入していたのだ。
トリプルドムのジェットストリームアタック対ガンダムは、それまでの実景的夜間背景から一転して、まるで『デビルマン』(1972年)か『マジンガーZ』(1972年)かのように、背景が独特の極彩色に演出され、『宇宙刑事ギャバン』(1982年)の魔空空間を先取りしたかのような異空間演出で、ガンダムバトルでは最高峰とも言える“剣豪VS忍術軍団”の死闘が繰り広げられる。